『北緯36度の夜 - ケンタッキーの旅 part2』にお越し下さり、誠にありがとうございます。
part1と重複しますが、復習も兼ねてお話ししていきます。
改めて、アメリカの面積は、日本の25倍あります。
その中でも、ケンタッキーはアメリカの中央より東側の、南部と呼ばれる地域にあります。
また、ケンタッキーは北緯36.3-39.9度にあるため、南の方は、栃木県と同じ北緯にあります。
いつも同じ空の下で、いつも同じ夜を過ごしていることになります。
面積は栃木の16倍あります。
面積16倍に対して、人口は栃木の2.2倍程度です。
人口密度で見ると、栃木の方がケンタッキーの7.5倍あります。
栃木をぎゅーっと広く伸ばしたのがケンタッキーで、家から家が遠く、電車は貨物列車がある程度です。
なので、職場にも学校にも車で移動する、ドアtoドアの車社会です。
しかし、過疎というより、豊かな自然があると感じられます。
州都ルイビルは130万人都市、宇都宮は50万人都市で、人口2.2倍に比例した規模です。
観光資源は、
❶ケンタッキーダービー
❷バーボン発祥の地と呼ばれるケンタッキーバーボン
❸それから、600kmは続くと言われる、マンモスケイヴと呼ばれる地下空洞です。
自然や生き物、農産物が豊富なケンタッキーには、広大な平野が広がります。
そして、バーボンの原料となるとうもろこしの産地です。
バーボンとは何かおさらいしましょう。
❶まず、バーボンはアメリカで作られなければなりません。日本でバーボンを名乗ることはできません。
❷原料には、半分以上とうもろこしを使用します。
❸アルコール80度以下で蒸留したお酒を、
❹62.5度以下に加水して樽に入れて熟成させます。
❺お酒熟成させる樽は、内側を焦がしたホワイトオークの新しい樽のみ使用できます。1度使った樽は2度と使えないので、日本やスコッチのウイスキーの熟成用に輸出されていきます。
❻カラメルなどの着色をしてはなりません。
↑こちらは前回part1で紹介した蒸留所になります。
↑今回、新たにオープンした6軒の蒸留所を見学しました。
オハイオからアクセスしたので、地図の一番山になっている北側から入りました。
❶❷❸の順で訪ねて行って、一泊して、❹❺❻と抜けてオハイオへ戻りました。
❸❹❺番の辺りが、一番人口の多いルイビルです。
今回、アトランタからアクセスしました。
アトランタではテネシーウイスキーのジャックダニエル蒸留所に行きましたが、それはまた別の機会にご紹介したいと思います。
私たちは、オハイオ州のコロンバス空港に向かいました。
向かった先には、現地に転勤された、お客さんのおうち。
ご家族の好意でホームステイさせて頂きました。
初日です。車で4時間半ほど移動して、オハイオからケンタッキーに向かいます。
最初に訪れたのは、ハートフィールド&カンパニー蒸留所です。
ケンタッキー州のバーボンスタンプラリー加盟店です。
とても静かな住宅地の中にありました。
蒸留担当のコーフィーさん。
グーグル翻訳を使って、日本語で伝えようとしてくれました。
蒸留釜はステンレスタイプ。
蒸留したてのアルコール蒸気が、銅の管を通って出てきます。
ここはいわゆる斗瓶取りタイプで、蒸留したてのお酒は小さなペット容器に入ります。
熟成も右の小さなスモールバッチと呼ばれる樽で行います。
瓶詰めも、ラべルを貼るのも全て手仕事です。
そうしてできた、このスモールバッチクラフトバーボンが、試飲グラスの①番になります。
余談ですが、可愛らしいクラフト作品がたくさんありました。
ランプシェードや、ペーパーウェイト、専用葉巻や、ボールペンなど。
さて、ケンタッキーはまだ雪が残っていました。
次に移動したのはブルーグラス蒸留所。なんと定休日でした。
計画した際は寄れる予定でしたが、改めてHPをチェックすると週3日営業に。。。
しかし折角来たので、角を曲がって回りこみ、
どんどん近づき、
監視カメラがありますとの警告を見つけました。しかし、銃に撃たれるとは書いてなかったので、中を覗いてみました。
明かりがついています。電話を鳴らすと、すぐ近くで電話がなりましたが、誰も来ません。仕方なく、樽を眺めて帰りました。
ちなみに、窓に格子のある地域は、治安が悪いそうです。格子のあるコンビニなどもあります。
ここは製造所なので、きっと治安に依らず格子があるのでしょう。そう思うことにする。
早速、別の蒸留所を予定に加えました。新たに向かうのはアーティサン蒸留所です。
(右腕出演の大嶋さん、私たちを連れてって下さって本当にありがとうございます!)
余談ですが、道の左右は石灰質の岩になっています。
日本ならトンネルにするか避けるような道を、アメリカの場合ガーッと切り裂いて道にしてしいまいます。
回り道より、まっすぐに通すのがアメリカらしいです。
アーティサン蒸留所に着きました。
女性スタッフが歓迎してくれて、日本のどこから来たのかと、地図を渡されました。
しっかり「宇都宮(utsunomiya)」と書いてきました。
イレギュラーでしたが、出会えなかったかもしれない人たちに、会うことができて良かったです。
バーボンと言えばコーンです。手にしている白い方の瓶には、粉砕されたコーンが入っています。
バーボンは、この粉の方を使って作られます。コーンを粉砕する工程を「ミリング」と呼びます。
これはミリングの機械です。
また、麦芽も扱っていました。
日本のビールやウイスキー、またスコッチウイスキーでは、この麦芽が主原料です。
ファーメンティングは発酵の工程です。木桶ダルを使っているのはバーボンの中では珍しい方です。
また、外側にテニスボールが付いています。
これは、パイプが飛び出て危ないから先っちょに刺したのだそうです。ちゃんと機能すればOKな感じがアメリカらしいと思いました。
蒸留器はステンレスが2基と、少し古い銅製のものが1基ありました。
瓶詰めは機械で行います。少し古いタイプのものでした。
発酵したバーボンのもろみは、苦いビールがさらに酸っぱくなった感じだったり、大抵あまり美味しくありません。
そういう顔をしたら大ウケされたので、顔芸は世界共通だと実感しました。
熟成に使う樽はケルビンクーパレッジのもので、内側を強く黒く焦がしたものを使っています。
ケルビンクーパレッジは、ルイビルの南にある樽会社で、クラフトバーボンではここの樽を使っていることが多いです。
余談ですが移動式蒸留器というものがありました。馬で引くタイプで、時々イベントで使うそうです。
日本で外でお酒を蒸留したら、捕まってしまいます。
アンティークな雰囲気で、遊び心のある蒸留所でした。
近くには貨物列車が通っていて、のどかな郊外の雰囲気でした。
試飲をして買って帰ったのが、右から2番目の赤いラベル、
カベルネ・ソーヴィニヨン・ワインカスク仕上げのバーボン。グラスの②になります。
3軒目は、ミクターズ蒸留所。私が一番行きたかったところです。
観光蒸留所ではなく、ここはオフィスという感じでした。
蒸留機をイメージしたイボイボのテーブル家具が素敵でした。
受付のお姉さんに、見学はやっていませんよと言われましたが、予約を取ってあると伝えると特別見学が始まりました。
早速ウイスキー樽の開栓から見せて頂きました。動画をご覧ください(当日会場のみ上映)。
空瓶がたくさん並んで、大量生産体制です。
コルクを軽く乗せる人がいて、打栓は機械で行っていました。
手間はかかりますが、どの製造所でもコルクは人が扱うのだと思います。
封蝋と言って、蝋で蓋をします。これも手作業。
メーカーズマークなどと一緒のやり方です。
ラベルや箱詰めは機械で行います。
試作用小型蒸留器です。小さくても高価なものです。
ちょうど、原料のとうもろこしを積んだトラックがやって来ました。
左の高い建物に貯蔵されていきます。その様子を動画でご覧下さい(当日会場のみ上映)。
マッシュタンクです。
プロペラが付いていて、攪拌も自動で行います。
とてもチャーミングなダニエルさん。
カメラを向けたら、蓋を閉めるパフォーマンスをしてくれました(すでに閉まっています)。
アンドレアさん。発酵中のマッシュの香りを嗅がせてくれました。
しっかり嗅いだら、すごく鼻が痛かったです(夜に鼻血出た)。
発酵の泡の様子を、動画でご覧下さい(当日会場のみ上映)。
こちらは銅製の蒸留機です。
蒸留したてのニューポッドと呼ばれるホワイトウイスキーが2か所から出てきているところです。
この中に、ミクターズのデザインの置物が入っています。お金がかかっています。
私はだんだん、ダニエルさんを撮るのが楽しくなってきました。
ニューポッドの試飲です。60-70度ありました。
仕事中ですが、アンドレアさんも、ダニエルさんも全部飲んでピンピンしていたので感心。
樽の貯蔵庫。
日本のウイスキーや、バーボンの中ではジムビームなど、上下の樽を入れ替えたりするのですが、
今回巡った蒸留所は、どこも上下の移動はしないということでした。
上の樽は温かく、下の樽は冷たく、自然に熟成させます。
樽の木は収縮したり拡張したりするので、ウイスキーが染み出てくることがあります。
この染み出たウイスキーがまた、美味しそうです。
ミクターズの金色の樽がありました。特別な商品だそうです。
見学後、応接室で試飲が始まりました。
用意があるということは、業界向けの見学があるようです。
改めて、樽のこだわりを聞きました。
焦がし方(チャー)はレベル3で、控えめとのことでした。
ただの自慢になりますが、貴重な25年を飲んできました。これだけはグラスを飲み干しました。
とても親切にしてくださった皆さんです。
余談ですが、アメリカには髭用マスクがあります。工場などで、ビゲを生やした人があごの部分を覆うマスクです。
ミクターズのウイスキーは、③番のグラスになります。
帰りがけに、ルイビルに建設中の蒸留所を見ていきました。
一つはラビットホール蒸留所。この場所以外ですでに稼働しています。
見学はできませんでしたが、日本未入荷なので、本日のグラスの④番で是非味わって頂ければと思います。
こちらはオールドフォレスター。こちらも昔からあるブランドです。
ルイビルの街なかに建てているところです。
州都ルイビルに一泊して、翌日も3軒廻りました。
こちらはエンジェルズエンヴィ蒸留所です。昨日のミクターズのように大きい蒸留所です。
街なかにあるので、観光向けにお金をかけています。総工費は5億とのこと。
お金の話ばかりになってしまいますが、ウイスキーは大きくお金のかかるビジネスで、必ず数字の話が出ます。
これは、2014年に来た時のリフォーム前の外観です。
今回2018年は、レンガ色に変わってオープンしていました。
観光者向けの美しい内観です。天井が高く、木とレンガがふんだんに使われています。
管理されたマッシュタンク。実用だけでなく、見学者にアピールするモニターです。
見学者のために、通路が広く確保されています。
今回ここの見学だけが、一般見学者と一緒でした。
「コーン:ライ麦:その他の穀物」の比率をオープンにしています。
ライ18%、その他10%でした。
ラボの壁には、科学と芸術と書かれています。
蒸留機の奥には外窓があり、機械が外から見えるようになっています。
街のシンボルになろうという気持ちを感じます。
蒸留したてのニューポッドが流れる部分は、エンジェルズエンヴィのボトルの形になっています。
エンジェルズエンヴィは、この1品だけを世に送り出していす。
全てをかけた1品です。
蒸留したてのニューポッドを嗅いだり触ったりしました。
製造ラインの瓶詰。コルクのテープは手貼りです。
樽貯蔵は意外にシンプルでした。フォークリフトを使って積み上げるタイプで、街なかの空間を有効活用しています。
試飲の時間になりました。
平日なので定年世代夫婦の見学者が多い感じです。
バーボンに合わせるのはやはりチョコレート。
奥には公式バーがあります。
公式バーでは、オリジナルのカクテルを振舞っていました。
バーボンそのままだけでなく、カクテルで飲むことをブランディングに含めています。
味わい方の選択肢、使い方の選択肢を広く提案していました。
これは日本酒にも言えることで、私も地酒カクテルを頑張ろうと思いました。
さて、次はピアレス蒸留所です。
写真は2014年のもので、BAG COMPANYとあります。鞄屋さんを改装しているところでした。
中に入ると、ショップが充実していました。
これらはカクテルの副材料やアロマキャンドルなど、ウイスキーを楽しむためのアイテムです。
ウイスキーの方は、1品だけを出荷しています。
見学時は、手の甲に数字のハンコを押されました。
囚人になった気分です。アメリカでは戦争博物館があちこちにあり、戦争の歴史は外せません。こちらもそのような雰囲気を感じました。
ピアレスは現在、バーボンでなくライウイスキー(ライ麦が主原料)の蒸留所です。配合比率は非公開でした。
少し警戒心を持たれてるようだったので、いっぱいお話ししました。
どこへ行ってもまずは、I’m from JAPAN. I love bourbon. です。
また、日本人だと言わない限り、中国人だと思われます。
2014年にもここに来たけれど、開いてなかったと言って写真を見せると、話しやすくなりました。
稼働して3年めの蒸留所ですが、蒸留器は少し古い印象の銅製のビアスティルです。
ニューポッドを嗅がせてくれました。
原料をコンパクトに保管しているタンクです。
しっかりした熟成庫。
熟成後の樽からウイスキーを取り出す台です。
瓶詰工程はシンプルで小さなラインでしたが、美しかったです。
ボトルは爆弾のようなデザイン。
どことなくアメリカっぽくない雰囲気のピアレス。
ライウイスキーに合わせるのも、やはりチョコ。
グラスは向かって左がスタンダード、残り三つはブレンド前の原酒です。様々な樽の原酒を混ぜ合わせて、スタンダードが作られます。
世界のウイスキーランクの15位になったと説明されました。
15位までにバーボンは4品ほどありました。
それはターキーやジムビームなどの大手が、特別に出している商品でした。
スタンダード品で入賞したのはすごいし、1品しか作っていないけれど、それがベストになるのは素晴らしいと思いました。
ただし、ここのスタンダードは136ドルほどするので、既にプレミアムと言えます。
世界地図があったので、日本にピンを打ってきました。
ピアレスのライウイスキーは、グラスの⑤番です。
最後はブーンカウンティ蒸留所です。
これまでと違って、デザインの印象がオールディーズなのがお分かりでしょうか?
緑のロゴに小さく書いてあるメイドバイゴースツは、創始者のエピソードからきています。
創始者がインディアンの埋葬地に家を建てると、3人の息子を亡くしてしまいます。それがインディアンの呪いと言われて、このウイスキーのブランドになりました。
どちらかと言えばお守りの意味として、今も魂が作り続けていると解釈したいです。
古くはレンガ造りの大きな蒸留所でした。
新たに、シンシナティより20kmほど南に建てられた、小さな蒸留所です。
全ての工程が詰まった小さな作業所に、立派な銅製の蒸留機があります。
ちょうど蒸留を終えたところでした。
穀物の粉砕もここで行います。
ミリングマシンで粉砕された穀物(GRAINS)は、茶色のパイプの中を通ってクッカーへ移動します。
配合比率も公開しています。74%がコーン原料のバーボンです。
こちらが原料を混ぜるクッカー。
もろみ発酵中です。
ケルビンクーパレッジの樽で、レベル4の、一番濃いヘビーチャーという焦がし方です。
ヘビーチャーは、一番右のように、樽の内側が真っ黒に焦がされます。
案内してくれた方は、英語をゆっくりしゃべってくれて、とても温かく迎えてくれました。
瓶詰、ラベリング、箱詰めは全て手作業です。
ドクロになったインディアンが、ボトルのデザインです。
当店にはイラスト系のボトルを置く志向がないのですが、新境地で選ぶことにしました。
ラインナップは4種で、左からバーボンマッシュとバーボン、ライマッシュとバーボンクリーム。
バーボンはコーンのフーゼル感がちょっと強かったので、ライマッシュを購入しました。ライウイスキーはありませんでした。
ブーンカウンティのライマッシュは、グラスの⑥番になります。
余談ですが、この形のトラックが、アメリカには1家に1台あります。
芝刈り機や日曜大工品を買って乗せて、日曜に家でDIYするのが男性の日常です。女性はSUVに乗るのが一般的だそうです。
アメリカでは芝を綺麗に刈らないと罰金になります。また、外に洗濯物を干してはいけません。景観を大事にしています。
色々大雑把な面もありますが、アメリカは気分を大事にする国のように私は思います。
働く人の気分(早く帰りたい)、街を見る人の気分(私生活感いらない)、道路を運転する人の気分(真っ直ぐが楽)、南と北に走る道路番号を偶数奇数に明瞭に分ける(迷わない)、など。
感覚や気分を大事にする分、人間本位になることもあるかもしれませんが。
そうして持って帰ってきたウイスキーたちですが、なんと1本割れてしまいました。トランクを開けた時、とてもいい香りがしました。
我々の飲んだことのないお酒を、すっかりトランクに飲まれてしまいました。
本日のバーボン6種類です。エンジェルズエンヴィはいつでもお店に置いています。
ありがとうございました。